校長からのメッセージ

校長からのメッセージ

第27回 叙勲を祝う会のお礼

平成30年9月15日  佐久間勝彦

 本日は私の叙勲を祝う会を、このように盛大に催していただきましたこと、心よりお礼申し上げます。また、文部科学省大臣官房審議官の瀧本寛様、千葉県副知事の高橋渡様、千葉市長の熊谷俊人様、千葉県私立大学短期大学協会会長の長谷川匡俊様には身に余るご祝辞を頂戴いたし、恐縮しています。

 この度、私は春の叙勲で、はからずも「旭日中綬章」の栄に浴しました。5月11日に国立劇場で勲記と勲章の伝達をいただき、その後皇居で天皇に拝謁してお言葉を賜りました。
 今上天皇のあずかる春の叙勲は最後となること、そして、千葉経済学園が創立して85年、短期大学が開学して50年、大学が開学して30年という大きな節目での受章であったこと、このことを心に銘記し、今後も学園のさらなる発展に力を注ぎたいと思うばかりです。

 そしてまた、今回の私の叙勲は祖父惣治郎、父彊に継ぐ栄誉となりました。祖父の惣治郎は私が小学5年の秋に逝去し、生前の功績を讃えられての「勲五等瑞宝章」となりました。
 小学生であった私は、祖父から教育についてなど、一つも教えられる機会はありませんでした。しかし、理想とする教育は私学でしか実現できないと意を決し、私財を投じての学園創立であったこと、
そして39人の生徒を迎えての開学から12年、いよいよ軌道に乗り始めることになった昭和20年に、千葉大空襲に見舞われて校舎を焼失し、陸軍兵器補給廠を譲り受けての再建に身を粉にしたこと、その労苦については、祖父惣治郎と祖母貞の「つましい暮らしぶり」を通して伝えられていたように思います。

 内務省・自治省の官職に就いた父は、消防庁長官を辞して後に本格的に学園の経営・運営にあたりました。中曾根総理大臣のもとで臨時教育審議会の委員を務め、日本私立短期大学協会会長を平成4年から8年勤めた父の、教育を考える基底には、幾多の困難を乗り越えて学校を興していった惣治郎の姿があったと認識しています。父が「旭日重光章」を受章したのは、昭和62年秋の叙勲でした。

 今回、はからずも叙勲の栄に浴した私は、祖父と父の叙勲に思いを馳せることとなりまして、本日は祖父と父の勲記・勲章を納めた額も壇上に披露させていただきました。
 祖父と父の築いてきた学園の歴史からしっかり学んで、学園の確かな未来を切り拓きなさい。そして、全国の私学人が取り組んでいる多彩な教育が稔り多いものとなるように力を注ぎなさい。そういう叱咤激励の込められた叙勲であると受けとめるからです。

 ここで、私が祖父と父から受け継ぐ教えを一つずつ話させていただきます。まず祖父に教えられたのは「一人も棄つべき者はない」という教育者としての心髄です。一人も棄つべき者はない。この教えは、昭和23年に毛筆でしたためられた「本校の教育」のなかに書かれています。何年か前に改めて読んで、「すてる」という漢字が、手偏の普通の「捨てる」でなくて、「放棄する・廃棄する・投棄する・棄却する」の「棄てる」であることに気づきました。
 辞書で調べて、手偏の捨てるは「持っているモノを手離す」という日常の行為を言うに過ぎないのですが、「廃棄する」などの「棄てる」は、生まれたばかりの赤子を塵取りにいれて棄てていた風習から来ていて、尊いいのちを打ちすてることだと知らされました。

 入学してきた生徒・学生のなかに、その「いのち」を見捨てていい者は一人もいない。手がかかって困り果ててしまう生徒・学生であっても、どこかに必ずいいところを隠し持っている。歌を忘れたカナリアを、歌を忘れたからといって山に棄ててしまう。そのように、学校から追い払っていいような者は1人もいない。祖父はそういう重い覚悟を「本校の教育」に書き著していると受けとめました。
 ちなみに、西条八十が作詞した「歌を忘れたカナリア」の「すてる」もまた、「廃棄する」の「棄てる」となっています。

 そして次に、父から送られた言葉ですが、それは「Small is Beautiful」です。「Small is Beautiful」はイギリスの経済学者シューマッハがエネルギー危機を見通して、「小さいことはすばらしい・小さいことは美しい」と説いた人間哲学に発しています。高度経済成長期やバブル期は「大きいことはいいことだ」が合言葉となって、皆が、人より大きくなることに酔い知れていました。私学も次々に学部を増設して、学園の規模を誇る風潮がありました。

 しかし、父はそういう潮流に乗ることをしませんでした。「Small is Beautiful」。
学園の規模が大きくなると目が行き届かず、心の通わない教育に陥りがちとなる。学園は大きくならなくていい。小さいからできること、小さくなくてはできないことを労を惜しまずに行って、教育の実を上げていく。
 そのように明言して、千葉経済大学は経済学部1学部とし、経済学科と経営学科の2学科の体制を堅持してきています。教授との距離が近くて面倒が見よく、適職へと導いてくれる大学だ。このように語る学生の声を聞くと、うれしくなります。

 祖父と父の教える2つは重なっていて、響きあっているように思います。1人たりとも棄てていい生徒・学生はいない。このことを肝に銘じて、Small is Beautifulを誇る学園として、さらなる歩みをつづけていきたいと思います。

 こんにちアクティブラーニングが声高に叫ばれていますが、私は「学生は未来からの留学生である」と話すことが多くなっています。学生は未来からの留学生である。言い得て妙のこの指摘は、加藤寛さんが今から28年も前に行ったものです。
 私たち教師が教室で会っている高校生や大学生は、小学校・中学校と階段を昇って進学してきているのではない。20年後、30年後の未来から、その時代に起きている未知の問題を解決して幸せな世の中をつくるための知恵を授かろうとして、はるばるこの時代に留学して来ているということです。

 ですから、過去から受け継がれてきている知識を覚えさせるだけでは、学校はその責務を果たすことになりません。思いもよらない難題が降りかかってきても、賢明に対処ができる現場力を磨いて、未来の社会に胸を張って戻って行ってもらう。それが高校教師・大学教師の担う責務なのです。

 惣治郎が学園創立に際して掲げた建学の精神は、「片手に論語 片手に算盤」です。日本の資本主義の礎を築いた渋沢栄一に共鳴した惣治郎は、渋沢の経済哲学「論語と算盤」を教育の根幹に据えました。「論語」は「人としての倫理や道徳、品格」を、「算盤」は「生計を営むにあたって力となる専門的な技術や知識」を象徴し、この2つを兼ね備える人財を育成しようという教育理念です。
 85年が経った今日にも通用する、普遍性をもつ理念ですが、「片手に算盤」の「算盤」には、「どのような問題に当面しても真摯に向き合い、知恵を絞りあって対処する現場力」が加えられるようになったと私は考えます。それが、未来からの留学生に応える教育となります。
 以上、叙勲にあずかっての思いを述べさせていただきました。平素よりご高配を賜っております皆様方に、心からお礼を申し上げて謝辞といたします。

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